意外な区切りの言葉①

ドンキホーテは「ドン・キホーテ」

 現代日本ではディスカウントストアの「ドン.キホーテ」(通称「ドンキ」)が有名であるが、その名前は、スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテス(1547~1616)の小説『ドン・キホーテ』(Don Quijote)(1605年・1615年出版)に由来する。

 騎士道物語を読み過ぎたことで現実と虚構の区別がつかなくなり、自らを騎士であると信じ込み、騎士として旅に出たドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ(本名はアロンソ・キハーノ)を主人公とする小説が『ドン・キホーテ』である。

 「ドン」(Don)とは、スペイン語圏・ポルトガル語圏における男性の尊称(貴人や高位聖職者に対して尊敬の意を込めて用いる呼称)である。ちなみに女性の尊称は「ドーニャ」(Doña)である。

 キホーテという人名に尊称「ドン」を冠したものが「ドン・キホーテ」である。プレイボーイの代名詞である「ドンファン」という言葉も実は「ドン・ファン」(Don Juan)であり、フアンという人名に尊称「ドン」を冠したものである。こちらは、ティルソ・デ・モリーナの「セビリアの色事師と石の客」という戯曲に由来する。

 ちなみに、元サッカースペイン代表で現在ヴィッセル神戸に所属するアンドレス・イニエスタは「ドン・アンドレス」とも呼ばれる。

 アメリカ英語で「ドン」は、マフィアなどの犯罪組織のボスを指す言葉にもなっている。日本でもそのような用法で「ドン」を用いており、「〇〇界のドン」という表現も馴染み深いものになっている。

 作者のミゲル・デ・セルバンテスと同じ時代を生きたウィリアム・シェイクスピア(1564~1616)も『ドン・キホーテ』を読んでいたという。この作品は、チャールズ・ディケンズ(『二都物語』『クリスマス・キャロル』など)、ハーマン・メルヴィル(『白鯨』など)、フョードル・ドストエフスキー(『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』『白痴』など)など多数の作家たちに影響を与えた。

 ちなみにセルバンテスは、世界史の授業にも出てくる有名な「レパントの海戦」(1571年、スペイン帝国・教皇領・ヴェネツィア共和国 vs. オスマン帝国)に参加し、その時の負傷により左手の自由を失っている。

アカペラは「ア・カペラ」

 無伴奏で歌われる歌の形式である「アカペラ」(a cappella)はイタリア語である。

 ”a” は「~へ」「~に」を意味する前置詞であり、”cappella” は「(主に教会内にある)礼拝堂」を意味しており、”a cappella” で「礼拝所で」「礼拝堂風に」「教会風に」というような意味になる。この意味から分かる通り、元々アカペラは教会音楽・宗教音楽である。

張本人は「張本・人」

 「張本人」とは「事件の起こる元を作った人」のことをいう言葉である。

 張本人の「張本」という言葉は「原因」「事の起こり」「(とりわけ)悪事の元となること」を意味する。つまり、「張本人」とは「張本となる人」のことである。なので「張・本人」ではない。

ヘリコプターは「ヘリコ・プター」

 ヘリコプターの「ヘリコ」とは、ギリシャ語の「ヘリックス」(螺旋)に由来するフランス語「エリコ」(helico 螺旋の)のことであり、「プター」はギリシャ語の「プテロン」(翼)に由来する。

 1861年にギュスターヴ・ポントン・ダメクールという人物が、上記の二語から「エリコプテール」という造語を作った。この言葉が英語で “helicopter” (ヘリコプター)という形になった。

 ちなみに、ポントン・ダメクールは1862年に蒸気動力の模型ヘリコプター「愛しのプロペラ号」を製作した。

 「最初のSF作家」「SFの父」とも呼ばれ、『海底二万里』『月世界旅行』『地底旅行』『八十日間世界一周』などの代表作で知られるジュール・ヴェルヌは、ポントン・ダメクールの影響を受けているといわれ、『征服者ロビュール』(1886年)にはポントン・ダメクールのものと思しきヘリコプターが登場する。

三半規管は「三・半規管」

 三半規管とは、耳の中にある「外側半規管」「前半規管」「後半規管」という3つの半規管の総称である。これらの半規管は体の平衡感覚を司っており、外側半規管が水平回転(左右、横方向の回転)、前半規管と後半規管が垂直回転(上下、縦方向の回転)を感知する。

 ちなみにヤツメウナギの半規管は2つ、ヌタウナギの半規管は1つである。